概要

1.はじめに

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書が公開され、第1作業部会の報告書では地球の気候システムの温暖化は疑う余地がなく、人間活動が20世紀半ば以降に観測された温暖化の主な要因であった可能性が極めて高い(95%以上の可能性)とされ、地表面気温だけではなくむしろ主に海洋の水温上昇としてその影響が現れていることが述べられています。
気候変動のメカニズム解明や、気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)の第2条に書かれた「危険な人為的干渉とならない温室効果ガスの濃度水準」がどのくらいであるのか、さらには気候変動によってどのような影響が生じるかに関する研究が鋭意進められていますが、人類はそうした気候変動に対して常に無策であるわけではなく、気候変動が生じても持続可能な開発が担保されるような対策、いわゆる適応策の効果についても研究が進められています。
IPCCでも第4次報告書以来、第2作業部会の評価報告書では緩和策と適応策とは気候変動対策における車の両輪である、と位置づけられていますが、つい最近まで両者は別の文脈で取り扱われることが多く、日本では適応策への取り組みが遅れていました。ようやく2015年夏に日本政府全体の適応計画が取りまとめられる予定であり、両者の統合的な実施による効果的で効率的な気候変動対策の計画立案支援、ならびにカンクン合意に基づく発展途上国向けの気候変動適応計画の策定に関わる国際交渉に資する研究開発が期待されています。

2.研究の概要

緩和策と適応策との統合的実施によって復元力に富み、持続可能な社会を構築しようとする施策を国内外で実施するにあたり、投入可能な経済的、人的、制度的資源が限られている条件下で、緩和策、適応策にどのように取り組むことがもっとも効果的かつ効率的であるかに関する定量的基礎資料を整備し、リスクマネジメントとしての気候変動対策の適切な計画立案に貢献します。そのため、以下の(1)~(5)の個別テーマを実施するとともに、アドバイザリーボードを設立・運営することで、効率的なプロジェクト運営を行います。

(1)全体の総括と統合的戦略評価

人類が直面する様々なグローバルリスクの中でも特に重大である気候変動のリスクを的確に捉え、限られた資金的・組織的・人的資源を有効に利用してそのリスクを最小限に抑え込んでいく総合的な戦略が必要です。テーマ1では、戦略課題全体の総括として、テーマ間の研究調整、連携の促進、ならびに課題全体の進行管理の役割を担い、各テーマの成果を統合し、世界、各国、日本、地方自治体、個人としてどのように緩和策と適応策のバランスをとりつつ気候変動対策に取り組むのが効果的であり効率的であるかを様々な指標に照らして多面的に評価します(サブテーマ(1))。また、そうした統合的な評価にあたっては、テーマ2やテーマ3の知見を集約化し、ライフサイクルアセスメント(LCA)の枠組みで人間健康や生物多様性といったエンドポイントでも気候変動対策の効果を明らかにできるようにします(サブテーマ(2))。さらに、サブテーマ(2)とも連携しつつ主観的幸福度や障害調整生命年(DALY)などの指標も用いた気候変動の影響評価、すなわち緩和策や適応策の費用便益分析手法を開発し、サブテーマ(1)の統合評価で利用可能とします(サブテーマ(3))。

プロジェクト全体を通して、主にグローバルを対象とし、緩和策と適応策のバランスは国や地域のまとまりごとに評価します。利用可能なCMIP5の気候変動シナリオのうち、主にRCP8.5とRCP2.6の利用を念頭に置いています。また、研究成果をすみやかに国際社会に発信すると共に気候変動政策に生かせる形での取りまとめも行います。

(2)生態系保全による緩和策と適応策の統合

生態系はそれ自体が炭素蓄積や気候調整などの機能を持つと同時に気候変動がもたらす気温上昇、海面上昇、高波、山火事等の自然災害リスクの削減効果を持ちます。そのため、生態系の保全は、気候変動問題に対する緩和策と適応策の両者に有効になりえます。他方、人間活動による現世代の経済利益と、生物多様性および生態系サービスの喪失がもたらす将来世代も含めた生態リスク増大との間にはトレードオフが存在します。複数の政策シナリオによる今後の生態系サービス変化の将来予測、全球的及び局所的な緩和策と適応策の両得及び得失相反の関係を明らかにし、統合策への一助とします。

そのため、陸域生態系の強靭化または脆弱化がもたらす災害リスクへの影響を明らかにし(サブテーマ(2))、沿岸生態系の分布情報整備と緩和適応策に資する生態系サービスを評価し(サブテーマ(3))、沿岸生態系の緩和・適応機能の応答を定量的に予測し経済的に評価し(サブテーマ(5))、森林生態系における生物種間相互作用と生態系サービスへのマクロスケールの影響予測にもとづいた緩和策と適応策の統合評価を行い(サブテーマ(4))、これらを統合した気候変動と気候変動対策の生態系サービスへの影響評価を明らかにします(サブテーマ(1))。

(3)気候変動に対する地球規模の適応策の費用便益分析

地球規模の気候変動適応策の効果と費用便益に焦点をあてた研究を担当します。その際には、適応をふまえた防災のあり方の検討を含む、防災と適応策との相乗効果の検討も行います。本テーマでは、(1)水関連災害、(2)穀物生産に関する影響、(3)保健・健康・衛生に関する影響、(4)沿岸災害という4つの主要な領域を対象に、地球規模の気候変動影響と、実施可能と想定される適応策の費用便益の検討を行います。本テーマでは、テーマ4から得られる気候変動適応策の地域的知見も参照し、地球規模の適応策実施の技術的経済的検討と課題等の整理を行うとともに、テーマ5の緩和策と適応策の統合的モデルの構築に必要な知見をテーマ2と共に提供します。

(4)アジアのメガシティにおける緩和を考慮した適応策の実施事例研究

IPCC第5次評価報告書において気候変動の多くの世界的リスクが都市域に集中していることが指摘されています。そこで本テーマは、発展著しくマルチストレスに曝されるアジアのメガシティ(インドネシア・ジャカルタを想定)において緩和を考慮した適応策の事例研究を実施し、プロジェクト全体の中のグローバルな評価における地域検証研究としての役割を担当します。サブテーマ(1)では、グローバルに入手可能な都市データを使用した汎用的マルチスケーリング手法によって、全球から都市・街区・人間スケールまでの都市気候変動予測(豪雨・暑熱)を都市計画シナリオ別に行います。サブテーマ(2)では、サブテーマ(1)の豪雨変動予測結果に基づき、水災害に関する費用分析評価を行います。サブテーマ(3)では、サブテーマ(1)の暑熱環境予測結果に基づき、健康影響に関する費用分析評価を行います。

(5)気候変動に対する地球規模の緩和策と適応策の統合的なモデル開発に関する研究

IPCC第5次評価報告書では、緩和策と適応策の統合的かつ定量的な評価の実施の必要性が示されています。そこで本テーマでは、世界全体の温室効果ガス排出量と整合的な緩和策、影響・適応策費用推計を担当します。サブテーマ(1)では、テーマ2と3から提供される地球規模の気候変動適応策の効果と費用便益に関する情報を利用して、世界全体における温室効果ガスの削減費用、影響被害額、適応策費用を整合的に推計するための応用一般均衡モデルを開発します。サブテーマ(2)は、テーマ2と3で開発される全球物理影響評価モデルを一般均衡モデルとどのように連携させるかについての理論的・技術的基盤の確立に関する研究を実施します。サブテーマ(3)は、応用一般均衡モデルに組み込まれている理論やパラメータの妥当性を検討・支援するための計量経済モデルを開発します。サブテーマ(4)は、国際制度の視点から応用一般均衡モデルを用いた緩和策と適応策の統合評価実施に用いるシナリオ設定(政策仮定)の妥当性について検討を行います。サブテーマ(5)は、ガバナンスと資金メカニズムの視点から応用一般均衡モデルを用いた緩和策と適応策の統合評価実施に用いるシナリオ設定(政策仮定)の妥当性について検討を行います。

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